CASE STUDY

ケーススタディ

インサイツ自主調査レポート
食堂で考える、消費者調査
  このところ、「瀏陽蒸菜」に通っています。上海でここ数年、急に増えてきた店で、店頭で小さなお椀に入った料理を並べ、好きなものを取って食べるスタイルです。いわゆる「快餐」と呼ばれるカフェテリア方式の食堂より、料理を軒先に置くぶん、さらに見えやすくなった食堂、ということができるでしょう。

  私は消費者調査を専門にしているので、どうしても客層に目が向いてしまいます。男女比はどうか、収入層はどうか、何品頼むのか、何人で食べるのか、などです。お店の主人はマーケティングを経てこのような業態を開いたわけではないと思いますが、この種の実物を見て選べる食堂はやはり人が多く入るようです。

  中国で長く活躍されている日本人であればこう考えるかもしれません。中国人は種類が多いのを好む、目で見て判断できることを好む、みんなでシェアできる食事を好む、などです。確かに中国では、現物を選べる食堂は歴史が古く、これを研究している学者さんもいるほどです。では、多くの人がこうした食堂を利用する光景を目の当たりにするとき、この業態は多くの人に支持されているし、今後も支持されるだろうと考えてもよいのでしょうか。

  それほど単純ではない、と思います。

  上海では第一に、近年「餓了嗎(アーラマ)」や「美団」を中心とした宅配サービスが激しい競争を繰り広げており、利用者の全体像が見えにくくなっています。店内が混雑している店も当然ありますが、客は入っていないのに宅配サービスが頻繁に出入りする店も多く見かけられます。以前から出前がなかったわけではありませんが、近年はこの傾向に拍車がかかっています。つまり、見たままでの比較、判断がしづらくなっているのです。

  第二に、私たちが目で捉えている消費者は場所に限定されている、ということです。仮に店舗が多くの消費者でにぎわっているとして、他の地域でも同じようににぎわうと断定することはできるでしょうか。難しいと思います。目で捕捉できる事実は、「部分的な真実」以上ではないからです。言い換えれば、代表性のないデータである、とも言えるでしょう。消費者調査が必要とされるのは、まさにこうした部分を補完し、多くの地域で店舗を展開するうえで、説得性のあるデータ、わかりやすくいえば「根拠」を得るためです。

  これは当然、食に限った話ではありません。業態・業種によって調査のやり方は変わってきますし、マーケットの理解の仕方ひとつ取っても考え方はいろいろあるでしょう。いずれにせよ、著しい発展を遂げ、多くのモノやサービスが溢れかえるようになった中国では、消費の選択肢が格段に増え、それ自体が消費者の嗜好や行動を見えにくくさせている一面があり、消費者調査を通して市場を理解することの重要性はますます高まっているといえます。「爆買」に代表されるように、中国発の新しい消費スタイルも今後増えていくことも考えられます。

  さて、第一回ですので今日は食堂の話から始めてみました。これからしばらくの間、消費者調査の手法やコツなど、様々な話題をお届けしていきたいと思います。